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「あーもう!むかつく!!」
と、電話ガチャ切り。
それは暑い夏の日の昼、営業時間まっだた中のことだった。
アシスタントのみゆは周囲に聞こえるくらい音をたてて電話をきり、もとから丸い頬を、さらに膨らませていた。
まさか…客じゃねーだろーな…相手…
「すっごいカンジ悪いです!この人!」
同じ会社の別部署のやつらしい…
なら、いいけど。
「聞いてくださいよおー。だってえー、向こうのミスなんですよ? こっちはちゃんと受注入力してるのに、向こうが発注製品間違えて…それなのに、そうでしたっけ?っとかとぼけてんですよ…しかもこっちからお客に謝っといてっていうんですよ!営業が客への窓口だからとか、なんとか…」
「ああー、いいよわかったわかった。オレがお客さんに謝っとくから…」
と、とりあえず客テル。
急ぎでもないらしく、そんなに怒ってはいなかった。
返品処理やらをだらだらやって…、終了。
が…
仕事上の処理は終了したが、それでも収まらない人がいた。
フグ子さんはとりあえず、頬の中の毒(空気)を抜いたようである。
が、うつろな目つきに、ため息も多くなった。
「なんか、つかれました」
怒りつかれた、という意味もあったのだろう。
当然、仕事に疲れたという意味もある。どっちにしろ、彼女の仕事の手はほぼ止まっていた。
「なんで世の中、あんな人ばっかりなんですかね。わたしは…みんなと、仲良くやりたいのに…それなのに…」
まーた中2みたいなこと言って、仕事放棄か…
はあ〜…
「いろんな人がいるよ、特に会社はな。違うタイプの人間がいろいろいて、それで成り立ってんだから」
視界を遮れれば、世界は闇となる。
でも闇だと思っているのは自分だけで…
その遮るものをとっぱらえば、当然ながらちゃんと明るくなる。
「でもさ、いままでヤなやつばっかりじゃねーだろ。逆にスゲーいい人とか、いたんじゃねえの?」
「え?、えー…あ、そういえば…」
と、みゆは話し出した。
それは、まだみゆがこの仕事につきはじめたころ。
お客にだす見積もりの製品を間違えてしまい、そのまま違う製品を納品してしまったことがあった。
それでも、お客は「気にしなくていいですよ」とその違う製品を買いとってくれたのだ。
「泣きながらお客さんにあやまって…そういわれて、また泣いちゃったんですよね…」
にやにやとしながら、みゆは当時を思い出した。
「そういう人もちゃんといるってことさ」
落ち込むきっかけも、立ち直るきっかけも、だいたいは自分の中にあるものである。
浮かれているときは落ち込むきっかけを忘れているし、落ち込んでいるときは立ち直るきっかけを忘れている。
自分を深く見つめなおすことができれば、大体の答えはみつかる。
「どっちかっていうと、そういう人を心にとどめておきたいよな。悪い出来事のほうが印象に残りやすいもんだけど、さ…」
「…」
世の中、やなやつもたまにいますが。
みんながそういうやなやつのことをすぐに忘れて。
逆にいい人のことを心をどどめるようにすれば…
世の中、もっといい人が増えんじゃないかな、と思う。
「あー!もうむかつく!!」
17:58終業直前…
デジャブを思わせるような、聞きなれた声が隣で響く…
「すごいメンドくさい依頼が来ちゃいました!今日は即帰ろうと思ったのに〜」
「…」
「あ〜なんでこんなタイミングなんですかねえ〜、明日の朝にすればいいのに〜もう、信じらんないです。全然、意味わかんないです!何考えてるんですかね、この人!」
うん、なんていうか、さ…さっきボクの言うこと、全然伝わってないですよね。
ああ…
むなしい風が、ぽっかり穴の開いた心を通り過ぎていきました。
- 2010/08/11(水) 23:57:56|
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「孤独だなあ…って、よく思うんだよな」
…とある先輩はこうつぶやいた。
ボクはその言葉を聞いて、首をかしげざるを得なかった。
先輩は、近々結婚を控えていた。しかも奥さんは妊娠中。
家族が、すでにいるのである。
孤独なはずなどなかった。すくなくても、完全独り身のボクよりは。
その日、先輩が結婚してしばらくは遊べないだろうということで、同僚が結婚祝いもかねて、飲み会をひらいた。
酒の勢いもあり、はじめはテンションだだあがりだった。が…
騒ぎ疲れたメンバーが寝たり黙ったりしたため、場はだんだん静かになっていった。
酒飲めない、しゃべんないの二重苦のボクに、先輩は冒頭の言葉を吐いた。
「なんで、そう思うんですか?」
思い切って、ボクはそう尋ねた。
もう同棲もしている。家に帰れば、仕事で疲れた体をねぎらってくれる人がいる。
何もしなくても、食事やフロの用意がされてある。
一人暮らしが長いボクにとっては、うらやましい話でしかなかった。
「…う、ん〜あー、そうだな…」
先輩は答えあぐねていた。
それは言いづらいという意味ではなく、本当になんと答えていいかわからないようだった。
孤独という概念が、ただぼんやりと先輩を支配しているかんじだった。
「具体的に、どういうときに孤独って、思うんですか?」
ボクは続けてたずねた。
先輩はさらに2、3回うなったあと、こう答えた。
「嫁さんにも話せないことあるな、って、思ったときかな…」
焼酎を飲み干して、赤ら顔に苦笑を浮かべた。
「話せないこと…ですか」
「別に悪いことしてるわけじゃねーよ。でも人間、いろいろあるじゃん。カコとか、こーゆうの話は嫁さん、わかってくれねーんだろうなあ、とか、さあ…」
別に仲が悪いわけでも、ケンカをしているわけでもない、と先輩は付け加えた。
焼き鳥の串をくわえながら、先輩はカウンターの奥のほうを、ぼんやりと見ている。飲み屋の主人が、おにぎりを握っていた。
「そういうの、話せないなあって思ったとき、ちょっと孤独って、思うんだよな。たいしたことじゃないんだけど」
先輩はもう一度苦笑を浮かべた。
結婚をし、長い生涯をともに歩もうと決めた相手なのである。
つらいことも楽しいこともすべて分かち合い…というのが理想ではあるが。
やはりそうもいかないのが、現実である。
「そうですよね。人間ですからね。いろいろ…ありますよね。話せないことも」
「…」
「でも、逆に奥さんにしか話せないことも、いっぱいあるんじゃないですか。結婚しようっていう相手なんですから」
「まあなー…」
「そういうときって、孤独とはまったく違う感情を、先輩は抱いているんじゃないですか?」
誰がたのんだかもわからないチューハイを、いつのまにか口につけてしまっていた。
酒も飲めないくせに。
ただ、何か刺激になるようなものを、口に含みたい気分になっていた。
帰りに、先輩の背中を見送るとき。
先輩の言っていた「ぼんやりとした孤独」というものを、ボクは確かに感じていた。
- 2010/07/30(金) 06:05:14|
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午前5:30…
ブラインドの隙間からぎらぎらとした日差しが差し込んでくる。
締めながら、暑くなりそうだな、と思い、冷房を入れた。
普段は百人ぐらいが常駐してるオフィスに、たった一人のタイプ音がやけに響く。
返信の来るわけのないメールの顧客に送る。
こんな時間に返信きたら逆にコワイが。
ただ、静かである。
上司のいやなドナリ声もなければ、騒がしいアシスタントたちのおしゃべりもなし。
「…おはよう…ございまあ〜す…」
いつも元気な彼女の声に影がある。
ただどんよりと細くなった目じりに、光るものがあった。
「だ、だいじょうぶか?」
「ちょっと、夜更かししちゃいました。大丈夫っす。仕事します」
カタカタというキーボードを打つ音は二倍になる。
が、やはり…すこし増えたところで、やはり、寂しい感じはぬぐえない。
6:30
メールをなんとか打ち終わり、書類チェックをしているとき、まったく作業の気配がしなくなっているのに気づいた。
「…ほなちゃん?」
「…すう…すう…すう…」
…
ほなちゃんはデスクにつっぷして、完全に眠ってしまっていた。
まあ…
慣れてないとこーなるよな…
はあ〜…
エアコンの温度、ちょっとあげとくか。
何か夢を見ているらしく、ぶつぶつ寝言をつぶやいている…
「…カツ丼食べたい…でも、はずかしい…」
―あ、カレシとゴハン行ってるんですかね?
女性がカツ丼頼むのは抵抗あるのかな…
「しあわせって…なんなんですか? タモさん…」
―なんで、タモさん?
「おとうさん…ごめん、なさい…迷惑、かけて…」
―いきなり重くなったな…どんな夢みてんだ?
他の社員が出社しはじめる8:00〜
ほなちゃん、ようやく目覚める。
「あ!すいません寝ちゃいました…」
「うん、その…口元…」
「あ!!」
と、袖口でゴシゴシ。
いやテッシュあるから…これで…拭いたら…
輝く朝日と同じように、彼女の口元も光輝く。
面白かったからよかったです。
早朝同盟、メンバーは今のところ独り。
- 2010/07/28(水) 07:19:03|
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ウチの会社では残業が一般的である。
社員で帰りは午後9時から10時ぐらいになる。出社は午前9時。
そのあと家帰ってメシ食ってだらだらして寝るというかんじ。
仕事のストレスもすごいので、当然夜更かしをする。
翌朝、睡眠不足のまま起床。半覚醒状態。
そんなままで仕事もできるはずなく、午前中はほぼ死んでいる。
そのため仕事の進みも遅く、結局残業を余儀なくされる…
…まさに負のスパイラル。
夕食も遅いんで、胃もたれ気味。骨もぎしぎしいっている。
そんな悪循環を断ち切る方法がある。
夜は残業せずまっすぐ帰り、残業分を翌早朝におこなう、というものである。
作業量はまったく変わらないのだが、早朝のほうが体調はいいような気がする。
なにより、会社に誰もいないんで、気を遣わなくていいというか、ギスギスした感じがないのがいい!
…ただ、朝起きれなかったときは未処理の仕事が山積みになる、という危険もある。
朝4時に起床して、会社着くのは6時前ごろ。そこで残業を片付ける。
早朝は気分がいい。
早起きは三文の得。いつもより、ほんの少しいろいろなことが、出来そうな気がする。
そんな生活を続けて一ヶ月、9時には眠くなってしまう体調になってしまった…
名づけて『早朝同盟』!
いや、ボク一人なんですけど…
てゆーか、クリとか高山さんにも声かけたんですが、全否定された。
「起 き れ る わ け が な い」
ハイ、そーですよね。
みなさんは夜遊びとか忙しいですもんね…
ゲームしかやらない引きこもりのボクだから出来るんですよね…
わかってますよ。ハイハイ。
「いいですねー、それ」
食いつきがよかったのはアシスタントのほうだった。
「やっぱり夜遅いと肌荒れとかひどいですからねえー。夜おなかすいてチョコなんて食べたら絶対アウトですよーわたしも朝早く来こようかな…」
ほなちゃんがそう言った。
「ん、いいよ。オレは6時には会社いるから。カギあけとくよ」
普段は百人ほどがつめているオフィスに、自分ひとりなのである。
スッキリはしているが…やはり…寂しい、といか。
ストレスにならない人が増えるのはいいことである。
夜型の日本企業に『早朝同盟』どれだけ浸透するだろうか。
…つづく。
- 2010/07/19(月) 04:15:02|
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その日、ボクはいつものように外回りをさぼって…
友人の見舞いに行った。
彼は同郷出身で、同じ大学の同級生である。
地方からなんのつてもなく上京するというのはけっこう大変なことで、彼は数少ない、同郷の友人の一人だった。
病室に入ると、彼はげっそりとした顔をしながらも、あわてて体を起こした。
「いいよいいよ、寝てろって…」
「ごめんな、仕事が忙しいときに…」
「いやいや」
ボクは思わず笑った。仕事をサボってきていたので、当然スーツ姿である。彼がそう思うのも無理はなかった。
「スーツ似合んねえな。大学の卒業式んときも思ったけど」
「うっせえよ」
もってきたカステラを彼の母親に切ってもらいながら、昔話に花を咲かせようとする。
が、それは蕾ていどで、開花には至らなかった。
彼は数分話しただけで、何かとても気分が悪そうに腹部を押さえだした。
あわてて母親がかけよる。そして看護師を呼んだ。
「ごめんなさいね、これ以上は…」
「…ああ、すいません」
お見舞いにきて容態を悪くさせちゃ元も子もない。
ボクはそのまま帰ろうとした…が、いったん、足をとめた。
彼が入院したのを知ったのは本人からのメールなのだが、そのとき、彼は
『わたしたいものがある』
と、書いていた。
お見舞いに来て数分である。当然、何ももらってなんかいない。
そいつは診察中、苦しそうに呻き声をあげながらも、ときおり、ちら、ちら、と、ボクのほうを見ていた。
「…」
ボクは軽くうなずいて、病室を出た。
そして、外回りを一件したあと、病院近くの喫茶店で待つ。
予想通りそいつからのメールがきて、また病室に戻った。
病室には、医者も、看護士も、つきそいの母親もいなく、彼一人だった。
「相当悪いらしくてよ…治るかどうかも、わかんねえんだ」
「そんなに、か?」
「早期発見だったらたいしたことなかったんだが、オレ、病院いくのメンドくさがっててさ。自業自得なんだけど…」
言いながら力なく笑った。先ほどの治療によってすこしはよくなったようである。それでも、どす黒い顔色はそのままで、息切れも激しかった。
「でも、家族や、心配してくれるみんなには悪いと思ってるんだけど…オレはこれもしょうがねえって、正直思ってんだよ」
「…」
「オレの、やりたいこと…知ってるだろ」
「…音楽、だろ」
そう…
彼は大学を卒業して歌手になるため、上京していた。
それから五年。いまだ生計を立てるには至っておらず、アルバイトをしながら音楽活動を続けていた。
「こっちきて音楽やるって決めたときから思ってたんだ…何があっても、死ぬ気でやり抜こうって…オレなんか、なんの才能もねーんだから…そうでも、しないと…ウッ、ううっ…」
「お、おい。大丈夫かよ」
あわてて医者を呼ぼうとした。しかし、枕元のベルをならそうとするボクを、そいつが鬼のような形相をして制した。
「自分のやりてーことやって、その途中で倒れる…そんなことは、何度も想像していた。だから、最悪それはしょーがねえ」
「…」
「でも、オレの家には、いままで作ってきた曲が何百曲とあるんだ。オレが死んだら、それはたぶん、誰にも知られず処分されるだけだろ?それが、なんか…自分の子供みてーなもんだからさ、作品って。やりきれ、なくて…」
「…遺書に書くか?曲を遺しておいてくれって」
「それじゃあだめだ!それだったら、アイツ死んじまってかわいそうだからって話になるだろ!そんなの、反則だ…オレはちゃんと曲の内容で、評価して欲しいんだよ。遺す価値もないようなモノだったら、処分してもらってもかまわねえ…」
「バカ!でかい声だすなって…」
そいつはまた苦しそうに、腹部のあたりを押さえる。きくかどうかわからないが、ボクはとりあえず、そいつの背中をさすってやった。
「ハアッ…ハアッ…ハアッ…」
息はだんだんと整ってきた。
そして、彼は枕の下から、あるUSBメモリを取り出した。
「この中に、いままでオレが作った曲が、すべて入っている」
メモリを持つは手はがたがたと震えていた。そのまま、ゆっくりと、ボクに差し出す。受け取る瞬間、彼の震えが、はっきりと伝わってきた。ボクも震えそうになった。
「あずかって、くれないか…そして、もしオレが死んだら…聞いてみてほしい」
そいつはようやく体を倒し、ふうーっと息を吐いた。やるべきことをやった、という開放感に包まれていた。
「誰かに広めてほしい、なんて思ってない。オレは何千人も集めるような歌手になりたいんじゃないんだ。オレの曲を認めてくれる人は、オレと、オレのまわりの数人だけでいいんだ。だから…」
「…オレで、いいのか?こんな大事なもの…」
リップクリームぐらいの小さなメモリである。でも掌にのせているだけで、とてつもない重みを感じた。
「ホントはカワイイ女の子のほうがいいんだけどよ」
脂汗を額ににじませながら、そいつはようやく憎まれ口をたたいた。ボクもようやく、硬直していた頬を緩ませることが出来た。
ボクは自宅のカギにそのUSBメモリをつけて、ポケットに入れた。
「具合よくなったら、データの曲じゃなくて、生演奏聞かせろよ」
帰り際、ボクはそう声をかけた。
「まかせろって」
「…ああ、やっぱいーや。会場まで行くのめんどいから、ipodとかで」
「てめー…」
帰る足取りは、ただ重かった。
特にポケットの辺りが、スーツの生地ごと皮膚がはがれるんじゃないかと思うくらい、重みを感じた。
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- 2010/07/04(日) 09:40:25|
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